普段ブログ更新頻度が低いくせに、めずらしく立て続けで仕事紹介になりますが、今日発売の講談社ブルーバックス「父が子に語る科学の話」(ヨセフ・アガシ著/立花希一訳)の装画と中身の挿絵を描いています。
↑挿絵はこんな感じです。なかなか歯応えのある議論を、親しみやすく読めるように楽しいイラストを心がけました。
ヨセフ・アガシ博士は哲学者ポパーに師事した科学者であり哲学者で、この本は1962年に初版が出版され長く親しまれた科学入門で、このたびまた今の時代に読み継がれるべく、改訳、再編集、新装で登場の運びとなりました。
実際にアガシ博士がお子さんのアーロンと科学問答をしていくプロセスを描く中で、科学の歴史をその過程の複雑さ、面白さを読者に紐解いてくれるという本になっていて、ゲラを読んてでとても面白く、頭をひねりつつ挿絵を考えるのが楽しかったです!通して読むと、知らなかったよ科学の歴史、こんなにいろいろ見つけられてはひっくり返され、また再発見し、という営みの連続なんだなあと改めて感じ入りました。
冒頭には読書猿さんによる紹介の序文もついてて本の世界にすっと誘ってくれる作りになっています。
書店では手に取って読める本の紹介用の小冊子も置いてあり、夏休み本としてイチオシです。
(↑これは紹介冊子からのその序文紹介の写真です)
読書猿さんも指摘していますが、わたしもこの本で感銘を受けたのは「科学は無謬ではなく、間違いを重ね、それを検証し続けるプロセスだ」というメッセージで、これはかつてカール・セーガンも
「科学には誤りがつきものなのだ。その誤りをひとつひとつ取り除き、乗り越えてゆくのが科学なのだ。(中略)反証があがることこそが、科学的精神の真骨頂なのだ」
と言っていて、わたしはアガシとセーガン、ふたりの科学者の共通点をなんとなく感じながら読みました。
そして、この本のつくりの「父が子に語る」という形式には、読書猿さんも書いていましたが「関係性の安全」が意識されていて、上から高圧的に啓蒙したり否定したり、あるいは相手を侮るといったことがなく、わからないこと、疑問をもつことを安心して語れる健全な関係、時にサポートし、でも対等に語り合う関係のもと対話が進みます。まるでくつろいだキッチンにいるような雰囲気で、読者はアーロンと一緒に知的冒険に安心して没入できるようにできてるんですね。
きょうび、SNSなんかだと、科学やファクトを巡っても、対話というよりもどっちかを打ち負かすための、「議論」というかもはや「ケンカ」のような地獄の様相が繰り広げられるのを見ることもまま見かけますが、初学者や若い人がそうした冷笑的な議論しぐさを眺めたり自分も使ったり、という習慣に慣れてしまう前に、この本のようなあたたかい、誠実な教育的良心に基づいて作られた本を読むことで、科学はそういうふうに使う飛び道具では決してない、世界をよりよく知るための手がかりとしての道具であるということ、また、他者との対話はお互いに敬意を払い高め合う有意義な相互関係から成り立つということを楽しく学べるといいなあと思います。
この本も前回紹介の本に続き、夏休みの読書にぴったりの良書です、ぜひ!